近年、企業の目標として、労働生産性の向上や長時間労働の是正対策を中心とした「働き方改革」が掲げられているのを目にします。そのような企業の具体的なアクションとして「RPA導入」が注目されています。
そのRPA導入の初期段階の特徴として、業務の「可視化をする企業」と「可視化をしない企業」の二分化が挙げられます。RPA導入のための業務の可視化の意味やメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。以下に、解説して参ります。
実はやめてしまっても差し支えない手順が日常の業務には存在している
業務をRPAのロボットに処理してもらうためには、現状の業務の流れを調査票やヒアリングなどで、あらかじめ聞き出しながら、ロボットを動かすためのシナリオとして、その業務の処理手順をロボットへ落とし込む必要があります。
ロボットは、業務をシナリオ通りに的確にこなしてくれるものです。しかし、多くのムダな工程を含んだままシナリオを組み込んだ場合、ロボットはそのムダを含んだ非効率な手順をそのままに、処理や実行をし続けてしまいます。
一見すると、人の手を使わなくなったことにより、時間の短縮に繋がったように感じます。しかし、シナリオの開発やその動作テストにムダな処理を多く含んだ分だけの、多くの時間とコストが発生するのです。さらに、これから先にロボットが何らかの環境変化などで停止した場合のメンテナンスコストも、そのムダの多さに比例して大きくなってしまうのです。
普段、私たちがなにげなく扱っている業務の中には、実はやめてしまっても差し支えない手順がたくさん存在していることがあります。それらは、完全に日々の業務の中に溶け込んでしまっていて、まさに盲点といえるでしょう。
まずは一度業務の可視化を行うことにより、盲点を見つけ出しましょう。業務実態の把握はこの盲点も含めてする必要があります。この「やめても良い業務」に気付くには、新しい視点で業務の処理手順を見直すことが有効です。
RPA導入の前に重要なのは業務に携わる人の業務プロセスを把握すること
同じ業務を長期にわたり行ってきた現場担当者ほど、これまで積み重ねてきた経験則やノウハウで業務を処理しています。処理を行う際には感覚的にできているのです。そのため、文章やロボットのシナリオに、いざ業務の処理手順を落とし込もうとしたときに、すべての処理手順やパターン分けを多角的にアウトプットすることが、非常に難しいのです。
特にベテランの現場担当者になると、感覚的にたくさんのイレギュラー処理をこなしています。つまり多くは無意識のうちにこなしているといえます。実際にその場面が訪れた際にはそのパターンを思い出すトリガーを直ぐに思い出すことができるのですが、その場面に遭遇していないヒアリングの場で、どんなパターンがありますか?との問いに、パターンをすべて思い出して答えることができません。
ベテラン担当者へ、ロボットのシナリオを作るIT技術者がヒアリングをしても、イレギュラーを含まない標準的なシナリオや数パターンのシナリオをしか聞き出せないまま開発が進むことが多くあります。しっかりとテストもこなして完成させたとしても、完成後にヒアリングでは聞き出せなかったパターンが次々と出てくることは珍しくありません。
これを何度も繰り返してしまっては、シナリオの作り直しやそれに合わせたテストのやり直しなど、非常に多くの開発工数や期間を要してしまいます。
つまり、ロボットのシナリオを部分的な把握で作り込んでしまったならば、のちに、ヒアリング漏れ(アウトプット漏れ)が原因の膨れ上がった開発工数になってしまい、スケジュールも予定を大幅に超えてしてしまうという結果になるのです。
現場担当者が業務可視化の推進をする方がメリットあり
業務の可視化の進め方については、まず最初に「誰が業務プロセスの可視化を担うのか」を決めておきましょう。業務の可視化について、現場担当者へのヒアリングをシステム部門などがする場合もありますが、「現場レベルの担当者」自らが中心となって実施してもらうことがおすすめです。
システム部門の方はITの専門家ですから、現場のパターン分岐や業務の処理手順に関する知識に不足があるといえます。その結果、ヒアリングを何度も繰り返す必要が出てくるかもしれないからです。
現場担当者同士なら業務をある程度理解してるので、能動的に業務の可視化を行ってもらうことができます。そうすることで、処理手順の抜け漏れやパターン分岐に多角的にも気づきやすく、効率よく正確に業務可視化の実施をすることができるでしょう。
現場担当者が可視化を行ったときのデメリットについて
業務プロセスを可視化するというミッションは、一部の現場の担当者たちにとっては、日常の業務に負担が加わることになります。また、仕事は、既存の業務をブラックボックスにしておいた方がやり易いという意見の人もいます。業務可視化の反対勢力といえるでしょう。
このような懸念への対策として、現場にすべてゆだねるのではなく、業務可視化の推進プロジェクトチームを作って進めていくという方法が良いでしょう。最適なアプローチ方法はそれぞれの企業の風土や環境ごとに違いますが、参加メンバーに、反対勢力との人間関係が良好な人を入れたり、上層部のメンバーを一部に加え、トップダウンであることを強調させたりするのも重要なポイントです。
また、過去にこのような可視化プロジェクトに失敗している企業や、内部の人間同士では調整が難しい場合などは、あえて外部のコンサルタントをプロジェクトメンバーに加え、可視化のプロのノウハウを活かすという選択肢もあります。
まとめ:業務プロセスをRPA導入前に可視化しておくメリット
盲点となっていた作業の抜け漏れや、重複などのムダな作業を現状の業務プロセスを可視化し新しい視点でその手順を見直すことにより、見つけることができる。
特にベテランの現場担当者へは、フローチャート形式で業務の処理を可視化させて見せることにより、事前に複雑な業務パターンを洗い出すことができ、結果として効率的にロボット開発を進めることができる。
事前にロボットのシナリオを作るために業務の手順が明確にできていることから、開発担当者がシナリオに落とし込みやすい。また試行錯誤的な開発を繰り返さずに済むため、開発効率が純粋に上がる。
可視化の推進をシステム部門だけにゆだねるのではなく、現場の人をメインにしたプロジェクトチームを作ると良い。人間関係の良好な人や、上層部の人もプロジェクトチームのメンバーに加えるとスムーズに進みやすい。それにも懸念がある場合や、過去に失敗した企業などは外部コンサルの利用もしてみる。
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